子守唄

わたしの心が
すべてを知ってるの。
それはもう、何度も自分に言い聞かせてきたことよ。
信じると決めたの。
そう、お星様に誓った夜。

勇気がないの?
と風が髪を揺らす。

わたしの心が
すべてを知っているの。
それはもう、何度も繰り返した呪文のようよ。
もう、本を読むのをやめるわ。
そう、お月様と約束した夜。

泣いてるの?
と雲が月を隠す。

夜は泣くには静かすぎて
わたしは毛布にくるまって
声を押し殺して
心臓の音を聞くの。

それは懐かしいリズムで
溢れる涙はいつの間にか温かい雫となって
頬を温めるの。

どんな世界を見に来たの?
あした帰るかもしれない、この世界で。

洋服が泥だらけで汚れちゃうことも
靴を片方なくしちゃうことも
干しっぱなしの洗濯モノが濡れちゃうことも
開けっ放しの窓のことも
冷蔵庫で眠っているお豆腐のことも
歯を磨くのを忘れちゃったことも
出しっぱなしの蛇口の水のことも
まだ空かないお腹のことも
なにひとつ心配することなんてないわ。

そんな心配事してるあいだにも
空には大きな虹がかかっていて
クシャミをして孔雀の羽が開く瞬間を見逃すように
虹は空の青に溶けてゆくのよ。

どんな世界を見に来たの?

虹を見つけた瞬間の
胸の鼓動を忘れたの?

誰かが言うかも知れないわ
靴が右左逆よ、ちゃんと履きなさい。
雨に濡れたらシャベルが錆びるわ、ちゃんと片付けなさい。

わたしは胸を張って言うの。
雨に唄う、シャベルの音が聞こえないの?
そして、靴を脱ぎ捨てて裸足で踊るの。

誰かが笑うかもしれないわ。
この子は大丈夫かしら。
ちゃんと社会に馴染めるだろうかって。

わたしは心から願うの。
わたしの世界は素晴らしく優しく
色鮮やかに美しく
雨の音に踊るの。
それがわたしの見に来た世界。

わたしの心がそう言うの。
わたしの心が
すべてを知っているの。

素晴らしき
この世界。